オーストラリアはもう夏休みに入りました。
ここから2ヶ月近くの長いお休み。
私にとっても娘たちにとっても、まだまだ緊張感が抜けきらなかった日常から離れてリラックスできる時間となりそうです。
長女、生徒会に立候補
夏休みから数週間前のある日、長女が「今度Student Leaderに立候補したいかどうかを学校で聞かれるんだけどどう思う?」と相談してきました。
どんな内容なのか聞いてみると、ざっくり言えば日本でいう生徒会のようなもの。最終学年のYear6の生徒で構成されるリーダー的なものだそうです。
候補者が多い場合には、スピーチをして投票で決めることになるとのこと。
私は「ちょっとでも「やってみようかな」と思うならチャレンジしたらいいじゃん。結果がどうあれ、自分が「やってみようかな」と思うことは何でもチャレンジしてみたらいいよ。うまくいこうがいかなかろうが、マイナスになることなんて何もないじゃん。プラスしかないもん。」と。
長女は「うん、そうだよね。ちょっと考えてみる。」と言ったので、私はそれからその話には触れませんでした。
数日後、「やってみようと思うんだ。」と長女の方から教えてくれました。
立候補希望者は、立候補用紙に記入して期限までに提出したらしいです。
倍率2倍!スピーチを書くことになった長女
さて。蓋を開けてみると、なんと立候補者は募集枠の2倍もいたそうです。
オーストラリアの子供たちはみんな積極的で素敵ですね。
さぁ、ここからが大変です。1週間後までにスピーチを考えて提出しなければいけません。
そのスピーチは、学校で録画され、高学年と学校中の先生宛に流され、その場で投票になるという説明でした。
この時、長女は今の学校に転校してきて4ヶ月ちょっと。
まだまだ自分の殻を破りきれていなかった長女は、学校では大人しい子を演じていた部分もありました。
本人曰く、彼女のことをまだ知らない人もいると思うとのこと。
それはまずい。
長女はどんなスピーチがいいか、悩んでいました。
Chat GPTにスピーチの組み立て方とか聞いていい?
悩んでいた長女は、「スピーチ自体は自分で書くけど、Chat GPTに「スピーチの書き方」を聞いてみてもいい?」と聞いてきました。
私は、「書き方」を聞くのであれば、いいかなと一瞬思いましたが、こう返しました。
「一度、何も調べずに書いてみたら?
20人以上の人がスピーチするってことは、投票する人はそれだけたくさんのスピーチを聞くんだよね?
似たようなスピーチだったら飽きる。
しかも、あなたのこと知らない子達は、ありきたりなあなたのスピーチを一生懸命聞くかな?
あなたにしか書けないスピーチってなんだろう?って考えてみたら?」
と、私からはアドバイスしました。
すると「じゃあ、自己紹介みたいなスピーチのほうがいいのかな。私がどんな人かみんなあまり知らないと思うから。」と、言ってきました。
「絶対いいよ!」と、大賛成。
初めてのスピーチ原稿。長女の挫折が赤裸々に。
その後、私に「読んでみてほしい。」と持ってきたスピーチ原稿。
私は、誰よりも近くで長女のことを見てきました。
そこには、彼女が長い海外生活の中で、英語でつまづいたことが赤裸々に綴られていました。
長女は、長々と自分の想いを話すタイプではないので、私も感じ取ってはいたものの、直接彼女の口からそんなに正直な想いを聞いたことはありませんでした。
自分の生い立ちと転校でぶち当たった壁
オーストラリアの小学校では、新入生の紹介は名前だけだそうです。
国籍や、どこから来たなどは一切、先生からは紹介されなかったそう。
うちは姉妹でそうだったらしいので、それがこの学校では当たり前の光景なのかなと思いました。
なので、そもそも長女が日本人であることを知らない人もたくさんいると思うと。
長女は、自分は日本人だけど、アフリカで生まれて、数年間日本に住んで、その後はアジア某国でずっと暮らしていたことを最初に紹介しました。
アジア某国では転校しているので3つのスクールに通いました。2つ目のスクールでは友達もたくさんいて、授業でも積極的に自分の意見を言っていたこと。今、当時を振り返っても、とても充実して学校を楽しんでいたと書いていました。
でも、状況が一変したのは、その後英語力向上のために転校した3校目。
イギリス人の先生の英語のスピードと語彙についていけない自分にとてもショックを受けたことが書かれていました。
そこで自信を喪失した長女は、自分自身を隠して、大人しい自分を演じるようになりました。
なぜって?
大人しい子だったら、あまり話さないので、英語のボロが出ないからです。
英語が下手な私に一貫して優しい長女の心の傷
少し脱線しますが、長女は私がどんなに変な英語を話しても、私が言いたいことが何なのかを一生懸命汲み取ろうとして英語で会話しているなと感じることがあります。
また、外の人と話しているときに、私の英語がどんなにおかしくても変な顔をしたり指摘したりは絶対にしません。
とてもサラッと、私を傷つけないように「〜って言ってたね。」と、教えてくれるのですが、本当にサラッとしていて、私が聞き取れていなかったことを私に気にさせない不思議な優しさがあります。
でもそれは、彼女自身がたくさん傷ついてきたからだと思います。
順風満帆だった2校目で、英語がほとんど分からない日本人の男の子が同じクラスに転校してきたときに、グループワークで同じグループになりました。
おそらく、その子はグループに課されている課題すら何をするのか分かっていないだろうと思った長女は、チャットでその子に連絡をしました。
そして、何をやっているのか、その子はそのグループ内で何をやればいいのかを日本語で説明したそうです。
後日、その子のお母さんからそのことについてお礼を言われたときに教えてもらった事がありました。
そのグループワーク内の説明の中で「もっとこうできたらしたほうがいいかもしれないよ」みたいな内容があったそうです。そこで、長女は「私もできてないところがたくさんあるから人のこと言えないんだけどね」と言っていたそうで。
その子のお母さんに「小学生であんな気遣いできるなんて!」と言ってもらったんです。
でも、それまでにも長女は、数え切れないほど自分も周りに助けてもらってきたから、今度は自分が助けるのは当たり前のことだと考えていたでしょう。
そして、それだけ傷ついてきたこともたくさんあったということなんだと思います。
オーストラリアにきても同じ壁にぶつかる現実
さて、スピーチの話に戻ります。
長女は、最終的には3校目の学校でも周りの英語レベルに追いつき、自分でも英語力が上がったという自信を持つことができるようになりました。
でも、本来の自分を出すという部分では、本当に気の合う友達もほとんどできないままその学校を終えることとなりました。
オーストラリアに引っ越すことに誰よりも前向きだった長女。
ところが、実際に転校してみると、今度はネイティブの友達の英語が聞き取れなくてショックを受けることになります。そして、それもスピーチに書いてありました。
ショックを受け、また、本来の自分を隠すこととなりました。
ただ、今回はずっと「諦めたくない、変わりたい」と思い続けていたとも書いてありました。
最後は、
今の私を大人しい子だと思っている人がいるとするならば、それは本来の自分ではない自分でいる時の私です。
そして、私は少しづつおしゃべりな自分をここで取り戻しつつあります。
授業でも自分の意見を積極的にシェアすることも今、努力しています。
私は、いくつも学校を変えて、たくさんの人に出会い、様々な環境で学校生活を送ってきた経験があります。
だから、たくさんの人の気持を理解することができると思います。
という内容でしめられていました。
自分の言葉でいくべきだよと背中を押す
私は、このスピーチ原稿を読んで、「これでいきな。すごく正直で、すごくいい!」と言いました。
毎日Chat GPTを使っている私ですが、GPTにこの文章は書けません。
正しいとされるスピーチの書き方とはズレているかもしれない。
でも、そんなことは小学校の生徒会立候補のスピーチでは重要ではありません。
自分をどう表現することができるか、
自分という人間をどう知ってもらうことができるか。
聞いてくれる人たちの心をどう揺らすことができるのか。
それが一番大事だよという話を長女にしました。
何度か修正を繰り返し、家でなんども練習をして、学校で録画してもらいました。
投票の日、クラスメイトに「スピーチ良かったよ!」と言ってもらえたそうで晴れた顔で帰ってきました。
厳しい現実と掴んだチャンス
さて、投票結果発表の日。
この日はクリスマスコンサートがあり、当選者はそこで保護者たちもいるところで発表されるとのことでした。
私が学校に着くと、昼休み中だった長女が来たので「どうだった?!」と聞くと、
「カウンシルはダメだった。
でも校長先生に勧められて、ハウスキャプテンになったよ!」と。
はて?
時間がなくてよくわからないまま、コンサートの時間に。
コンサートの最後に、ハウスキャプテンとして壇上に上がった長女を見て、涙が込み上げました。
こんなふうに書いていると、長女は英語がイマイチな子みたいなかんじになってしまうのですが、
英語ペラペラなんです。
でも、ペラペラといっても「母国語」といえるレベルから考えたらはっきりと差があるんです。
それを、この1年半、娘たちは痛いくらいに感じてきたと思います。
そんな長女が、倍率2倍の選挙に勝ったなんて。
校長先生からの告知とフォロー
帰宅後に聞いてみると、リセスの時に、校長先生に廊下で呼び止められて話をしたそうです。
そこで、1票足らずで希望のポジションは落選したことを告げられました。
ただ、長女のハウスのハウスキャプテンのポジションが1つ空いていると教えてくれたそうです。本来は2人なのですが、1人しかいなかったそう。
校長先生は、長女のスピーチをとても褒めてくれたそうです。
転校したばかりなのに、こんなに票を集められるなんてすごいことなのよ!とも言ってくれたそうです。
そして、ハウスキャプテンにはいまいち自信が持てなかった長女が迷っていると、「これは、あなたにとってとてもいい経験になるはずよ。」と背中を押してくれたそう。
そして、長女はハウスキャプテンを受けることにしたそうです。
この校長先生の背中の押し方が、本当に温かくて嬉しかったです。
オーストラリアの人は、子どものやる気を上手に引き出し、それを後押しするのが本当に上手ですよね。
自分の本音を学校中にさらした長女の変化
スピーチをしてからの長女は、どこか吹っ切れた感じがありました。
自分の過去の失敗をみんな知ったんだから、今更なにも隠す必要もないと思えたのでしょう。
あとは、少しずつ友達の英語を聞き漏らすことがなくなってきているというのも原因かもしれません。
ハウスキャプテンをやることが決まってからは、さらに変わったように思います。
でも、そのチャンスを自分で掴みに行って、なんとかして掴み取ってきて。
長女を見ていて、改めて、チャレンジすることの素晴らしさに気づきました。
新しいチャレンジをしたら、いいことも悪いことも起こり得るけれど、悪いことが起きてもそこには学びしかない。
そして、いいことがあれば、それは最初のチャンスを自分で掴みに行ったことがなによりものきっかけなんですよね。
怖かったけど、自信がなかったけど、変わりたい一心でチャレンジした今回の生徒会。
そばで見ていて私もたくさんのことを学びました。
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